記事を通して言いたいこと(結論)
例によって、冒頭で述べておく。
- ガソリン燃焼効率を計算するコンポーネントをサブコンポーネントとして組み込んだ、ピストン&シリンダーコンポーネントを作成した。記事:レシプロエンジン平均化モデルの作成(3) – Pumping power –で述べたピストン&シリンダーコンポーネントに、燃料混合比と燃焼効率の関係を加えたもの。
- ガソリン燃焼効率計算コンポーネントは、記事:レシプロエンジン平均化モデル(4)簡易ガソリン燃焼効率モデルで報告したもの。
モデル化対象(とその周辺の現象・技術等)
燃料混合比と燃焼効率
記事:レシプロエンジン平均化モデル(4)簡易ガソリン燃焼効率モデルで既に紹介している。ガソリンエンジンでは、燃料混合比を増すと、燃焼による発生熱量がやがて頭打ちになり、逆に低下していくという挙動が有り、それを再現する。
コンポーネント
記事:レシプロエンジン平均化モデルの作成(3) – Pumping power –のピストン&シリンダーと外観も使い勝手も殆ど同じ。
1点だけinterfaceに増えたものが有り、吸気の空気質量比をinputするconnectorだ。燃焼効率は空気と燃料の質量比の関数で、シリンダへの吸気が気化ガソリンと空気だけならガソリン質量比を決めれば空気質量比も決まる筈だろう。しかし、吸入気が空気とガソリンだけの混合物とは限らない。水メタノール噴射装置を備える場合や、吸気に水蒸気等の不純物を含む場合があり、空気質量比は 1 – 燃料質量比 にはならない。その様な条件のシミュレーションに対応させられるように、それぞれの質量比をinputさせる造りとしておいた。
内部の造りも記事:レシプロエンジン平均化モデルの作成(3) – Pumping power –のものと殆ど同じ。
燃焼効率計算コンポーネントが置かれている事と、Otto Cycleコンポーネントが燃焼効率をinputに取るものに換わっているいる点が更新されている点だ。
シミュレーションモデル
Diagram
動作試験用の例モデルも、記事:レシプロエンジン平均化モデルの作成(3) – Pumping power –のものと殆ど同じだ。
空気質量比のconnectorが増えているので、それに対応して接続する信号線が増えているのみ。なお、吸気が空気と気化ガソリン以外を含む場合に備えてconnectorを増やしたと述べたが、この例モデルでは、空気質量比は、1 – 燃料質量比 を与えている。(エンジンシ作動ガスに用いているMediaに至っては、組成をDry Airとしており、本来途中で生じる気化ガソリンとの混合や燃焼前後の組成変化も再現はしていない、簡略なモデルだ。気化ガソリンと燃焼生成物の物性データも手元に無く、筆者に1からMediaを作るスキルも足りていない為だが。)
シミュレーション実行
- 吸気流路圧力損失係数: Orifice.zeta
- 排気流路圧力損失係数: Orifice1.zeta
- 吸気口圧力: boundary.ports[1].p
- 燃料質量比: PistonCylinder.u_fracFuel
- 生成パワー(エンジン出力): PistonCylinder.pwrOut
- 燃焼効率: PistonCylinder.calcEffComb.effComb
- 燃焼効率 vs. 当量比: PistonCylinder.calcEffComb.effComb vs. PistonCylinder.calcEffComb.lambda
- 熱サイクル仕事 vs. 当量比: PistonCylinder.OttoCycle.WoutCycle vs. PistonCylinder.calcEffComb.lambda
- ポンピングパワー: PistonCylinder.pwrPumping
- 機械回転数: PistonCylinder.Nmech
- 生成トルク: PistonCylinder.trqOut
- 吸気/排気ポート圧力: PistonCylinder.port_1.p, .port_2.p
- 吸気ポート通過ガス質量流量: PistonCylinder.port_1.m_flow
- 吸気流路圧力損失: Orifice.dp
- 排気流路圧力損失: Orifice1.dp
Input
今回の動作確認の目的からすると、燃料質量比(と連動して空気質量比)だけ動かして応答を確認すれば良いが、記事:レシプロエンジン平均化モデルの作成(3) – Pumping power –の時同様に色々動かしている(他のinputに対する挙動が同じのままか、燃焼効率の部分に影響を及ぼしていないかの確認という面が有るが、気にしなくていい。)。本題の燃料質量比に対する応答だけに注目したい場合は、時刻70 [sec] 以降の動きだけに注目されたい。
スロットルバルブを閉じる操作の代用。シリンダ吸気圧力を下げる(=質量流量を下げる)。
排気経路の圧力損失を上昇させ、pumping power(loss)を増大させる。
外気圧力を下げる。飛行機用エンジンなら運用高度を上げるのに相当するinputの操作。
混合気コントロールバルブ(自動車では自動化されているのかまず見かけないが、飛行機用ガソリンエンジンの多くには操作レバーが有る。フライトシミュレータのレシプロ機でスロットルレバーの近くに有る赤いレバー。)を開く操作の代用。自動的に、空気質量比が減るようにblockコンポーネントを組んであるので、空気質量比は操作不要。
Variables
燃料質量比の操作以外については考察・コメントを省略する。
燃料質量比を増すのに応じて出力が急上昇するが、上昇を続ける訳ではなく、途中で頭打ちになり降下に転じる。熱量源の投入量を増すことで、燃焼行程の発生熱量が増えるのだが、燃料が濃くなり過ぎることで燃焼効率が低下して燃料増加の効果に勝るようになり、最終的に発生熱量・エンジン出力が低下する。
燃焼効率がピークになり低下に転じるタイミングに比べて、エンジン出力が低下に転じるタイミングは若干遅い。これは、燃焼効率が低下を始めても、燃料(熱源)投入量を増やしている効果がまだ勝ることで生じるもの。
記事:レシプロエンジン平均化モデル(4)簡易ガソリン燃焼効率モデルで観たものと同じ。燃料希薄側は有効範囲の端で燃焼効率低下が止まるモデルとなっている。
上述にも有る通り、燃焼で発生する熱量は燃料増加と燃焼効率低下がせめぎ合って決まるので、熱サイクル1回あたりの発生仕事がピークとなる当量比は、燃焼効率がピークとなる位置と異なる。
*一番右の当量比が変化せずに熱サイクル仕事が変動しているのは、吸気経路圧力損失変化(スロットリング)などの操作によるもの。
残りは、記事:レシプロエンジン平均化モデルの作成(3) – Pumping power –で観たものと同じなので、考察・コメントは省略する。
正値== 作動流体へのエンタルピ流入。即ち、エンジンとしてのロス。
ここは1つ面白い挙動があるのでコメント。燃料質量比の増大に対して、吸気ポート圧力は燃焼効率や熱サイクル仕事とは逆の動きとなっており、一度減少して増加し直している。
これは、回転数が上昇し、通過空気の質量流量が増すことで、吸気経路での圧力損失が増大してしまったため。排気ポートの圧力は熱サイクルに影響されるが、吸気ポートの圧力は外気圧力、吸気経路抵抗、通過空気質量流量だけで決まってくる。そのため、今回のような一見何が起きているのか解し難い挙動が起きたりする。
後書き・まとめ
毎度同様、ほぼ冒頭で述べたことの繰り返しとなるが、
- ガソリン燃焼効率を計算するコンポーネントをサブコンポーネントとして組み込んだ、ピストン&シリンダーコンポーネントを作成した。=記事:レシプロエンジン平均化モデルの作成(3) – Pumping power –で述べたピストン&シリンダーコンポーネントに、燃料混合比と燃焼効率の関係を加えたもの。
- ガソリン燃焼効率計算コンポーネントは、この記事で報告したもの。
モデル情報
- コンポーネントのフルパス: PropulsionSystem.Elements.BasicElements.PistonCylinderNonidealOttoMV01
- 例モデルのフルパス: PropulsionSystem.Examples.Elements.BasicElements.PistonCylinderNonidealOttoMV01_ex01
- githubのライブラリページリンク
- 例モデル実行用jupyter notebookファイル: ipynbs4OMPython/PropulsionSystemLib/Examples.Elements.BasicElements.PistonCylinderNonidealOttoMV01_ex01_rev001.ipynb *動かすにはディレクトリ設定などの書き換えが必要なので、jupyterの基本的使い方を一通り知っている方向け。
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