Pulsejetモデルの作成

PropulsionSystem Lib 使用例

 久々にpropulsion systemのお題で更新。今回のお題は「パルスジェットエンジン(pulsejet)」。第2次大戦時にドイツが作った「V1飛行爆弾」を設計出来る、かもしれない。

記事を通して言いたいこと(結論)

 例によって、冒頭で述べておく。

  • 必要最低限の現象を包含したパルスジェットエンジンの計算モデルを作成した。そして、定性的に妥当な挙動を示している。


モデル化対象(とその周辺について)

    pulse jet

     まず、pulsejetとは何か。詳細は pulsejet wikipediaページの解説に委ねる。簡単に説明すると、下図の様にドア、ダクト、燃焼室から成る、回転機械を持たない「ジェットエンジン」だ。機構が簡単なため、ホームセンターで入手出来る資材で作成可能で、一般人でも手を出せるエンジンだ(そのようなものをガレージで造っていたら”逸般人”だが)。

     turbojetやturbofanとは異なり、燃焼・流れが間欠であること、熱サイクルに圧縮行程を持たない事が特徴だ。もう1つの大きな特徴が、静止状態では自力始動が出来ず外部から流れを与えなければならない点(最も、車などのピストンエンジンも最初はスタータでクランクシャフト・ピストンを回さねばならないから同じだが)。


    V1飛行爆弾

     圧縮が無い為、熱機関としての効率には如何なるサイクルよりも劣る。一方で、その機構の単純により実用化・生産が容易で安価なことから、第2次世界大戦において「V1飛行爆弾」で実用化された。

     V1飛行爆弾は下図に示すドイツ空軍が開発しイギリスに対して使用した巡行ミサイルの始祖とも呼べる自動兵器だ。無人で予め指定された進路(直線維持だけだと思うが)を自動制御で維持し、指定された距離を飛行するとエンジンを停止して落下、目標へ突入する。この兵器の大きな特徴が、背に搭載された大きなpulsejetだ。同ドイツで実用化されたturbojetと違い大した技術も必要でなく、量産が容易な為、消耗品として大量に発射するのに適していた訳だ。 *詳しい解説は V1飛行爆弾 wikipediaページに委ねる。

     pulsejet同様、この機体自体も仕組みが単純で市販品を集めて作成出来なくなさそうなので、本記事のモデルと機体用の設計&シミュレーションライブラリが有れば、エンジン含めた機体全体をModelicaで設計、ガレージで製作、公園でテスト、を出来るかもしれない(作って良いかは知りませんよ)。



    熱サイクル:ルノアールサイクル

     pulsejetの熱サイクルは、「ルノアールサイクル」と呼ばれる聞きなれないものだ。等容加熱(=燃焼器)、断熱膨張(=排気ノズル)、等圧冷却(=吸気)、の3つの行程からなる。一般的な、どの熱サイクルにも存在する圧縮行程を持たないため、投入する熱量に対して取り出せる仕事が小さい(=熱効率が低い)のが短所だ。ルノアールサイクル wikipediaページ(英語)

     参考までにルノアールサイクルのp-v図とT-s図を載せておくが、これらの読み方や、何故圧縮行程が無いと熱機関としての効率が劣るかと言った熱力学の詳しい話は省略する(将来、特設記事を設ける可能性は有るが)。詳しく知りたい方は熱力学の教科書を紹介しておくので自学願いたい。




     
    熱機関工学 (機械系教科書シリーズ)


Modelicaモデル

    diagram

     作成したModelicaのモデルは下図の通り。Modelica Standard LibraryのFluidと、PropulsionSystemライブラリとFluidSystemComponentライブラリのコンポーネントを使用している。

     インテイク後ろの開閉するドアは、チェックバルブで代用している。クラック差圧を極力低く設定し、燃焼器内の圧力が等容燃焼で上昇すると閉じ、排気に伴い燃焼器内圧力が下がり、インテイク出口圧力がそれを上回ると開くようにしている。

    燃焼器の間欠・等容燃焼は燃焼器温度を直接インプットする。


    シミュレーション実行

      Inputs

      • 飛行マッハ数(外部流速)
      •  マッハ0.2でシミュレートを開始し、その後0へと減速する。これは、外部流速0で開始すると計算が回らないため。計算のみの問題ではなく、現実でも始動時にはエンジンに流れ込む流速を何らかの方法で与えなければならず、静止状態で燃焼器に火を入れても作動しない筈だ。一度、間欠燃焼・間欠流のサイクルを作ってやれば、排気に伴ってインテイクと燃焼器に差圧が生じ、静止状態でも無事動作する。尚、V1飛行爆弾はカタパルト式の発射台から射出運用されていた。


      • 燃焼器内ガス温度
      •  三角波状に温度上昇させる。本当はガソリンエンジンのシリンダの燃焼のような波型となる筈だが、燃焼現象についての知見の不足のため簡略化する。

         下限温度(三角波の谷)は吸い込む空気の状態に依る筈だが、こちらも簡略化して適当な値に設定した。


      • 燃焼器内ガス温度(拡大)

      outputs

      • ノズル推力(赤)、ラム抗力(青)、正味推力(緑)
      •  間欠燃焼を開始するまでは、ノズル推力とラム抗力がほぼ等しく、正味推力が0。そして、燃焼を開始するとノズル推力が間欠的に増え正味推力が正値となる(エンジン通過空気量が増すのでラム抗力も増すが)。燃焼器内温度の変化に合わせて推力は波状(パルス状)変化となっており、意図した挙動となっている。

         飛行マッハ数を下げていくとラム抗力が現象し、マッハ数==0になると、ノズル推力==正味推力となる。これはエンジンが静止状態の周囲の空気を吸い込んでいる状態。


      • ノズル推力、ラム抗力、正味推力(拡大)

      • エンジン通過空気流量
      •  間欠燃焼を開始するまでは一定、間欠燃焼開始後は波状変化となる。当然、ドア(バルブ)が閉じ状態の瞬間は通過流量0となる。


      • 燃焼器内ガス圧力
      •  こちらも間欠燃焼を開始するまでは一定。間欠燃焼開始後は燃焼(ガス温上昇)併せてガス圧力が上昇する。このガス圧力が排気ノズルで膨張・加速されることで推力が発生する。


まとめ

 最初に述べた事を繰り返し述べることとなるが、必要最低限の現象を包含したパルスジェットエンジンの計算モデルを作成した。そして、定性的に妥当な挙動を示している。

以上

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