レシプロエンジン平均化モデルの作成(2) – 平均化Piston&Cylinder –

PropulsionSystem Lib 製作記

 前回記事に引き続き、レシプロエンジンのお題。今回は、ピストン&シリンダーのコンポーネントへと進む。

記事を通して言いたいこと(結論)

 例によって、冒頭で述べておく。

  • 前回記事で作成したコンポーネントを用いて理想Ottoサイクルによるレシプロエンジン平均化モデルのコンポーネントを作成した。意図通りの挙動を示しており、Modelicaコーディングには問題は無いが、モデル化の考え方に1箇所疑問点が残っている。

モデル化対象(とその周辺について)

 ガソリンエンジンとOttoサイクルについてはこの記事で触れているので本記事では完全に割愛する。今回は平均化モデルについて触れる。

    平均化モデル

     レシプロエンジンの作動機序を知っていればお判りと思うが、レシプロエンジン内の流体には定常状態というものが無い。ガスタービンと違い、1箇所で熱サイクルの全行程が発生するため、総ての動作が間欠なものとなる。流れは吸気と排気ストローク時にしか発生しないし、トルクは膨張ストローク時にしか発生しない。

     平均化モデルは、文字通りこれをサイクル全体で平均化して定常状態として扱う(加減速による過渡現象は、回転massコンポーネントやボリュームコンポーネントを別で接続して再現させることになる)。クランクシャフトの位置に関係無く、ピストンを通過するガスの体積流量はシャフトの機械回転数から決まり、出力するトルクはOttoサイクル計算結果の出力仕事とシャフトの機械回転数で決まる。

シミュレーションモデル

    コンポーネントの造り

     PropulsionSystemライブラリ内のCompressorコンポーネントと同様、fluidのポート2つと、flange 2つを持つ。fluidのportを介して吸気状態量を取得し、Ottoサイクルの計算を実施し、排気(膨張後)状態を量fluidのportに渡す。機械回転側については、flangeを介して他のコンポーネントと機械回転数とトルクの受渡を行う。


     ここで、冒頭で述べた1つの不明点が生じた。

     排気portのガス圧力はどの様に決まるのか。上述したように膨張完了後の圧力を排気ポートに渡して良いのか。

     Ottoサイクルは体積比が決まった膨張を行うので、基本的に膨張完了時の圧力は、吸気の圧力より随分と高い。そのため、膨張行程でロスが生じたとしても膨張後圧力が吸気圧力より低くなる事はない筈である。しかし、スロットルを大きく閉じている場合や、燃焼が吹き消える手前のような状態の作動の場合、膨張後圧力が下流流路の抵抗に負けてしまう(=流れなくなる)ところまで小さくなる事は有り得るのではないか。それでも、エンジンが回転している限りガスは問答無用で排出される筈だ。すると、排気ポートの圧力=膨張後圧力というモデル化は果たして正しいのか、そこが判らない。

     と、モデル化に不明点を残してしまっているが、ひとまず、このままコンポーネント完成としてテスト実行モデル作成と記事のクローズへと進むことにする。もし後程これが誤りと判れば、コンポーネントのコードを修正・再リリースするか、より正確な別バージョンをリリースし、続報記事を作成する。

    テスト実行モデルのDiagram

     下図が示すように、次のものを境界条件としてinputする。

    • 吸気圧力
    • 吸気温度
    • 燃料混合比
    • 排気流路出口外気圧力
    • シャフト機械回転数

     排気流路出口に関して、排気管出口で尚残っている圧力は外気圧力まで自由膨張・加速されて力にかわるものとみなして排気管下流に、自由膨張のコンポーネントを繋げている。これは、Modelica Standard LibraryのFluidに含まれるものではなく、筆者作成の「FluidSystemComponents」ライブラリに含まれているもの。

     機械回転数は境界条件として拘束する。実際のエンジンではタイヤなりプロペラなりの負荷トルクが外部から拘束条件として与えられ、エンジンの出力トルクとの大小関係から静定回転数が決まる。しかしそれだと計算設定が煩雑なので、機械回転数を拘束条件として与え、トルクをアウトプットとして算出する。実物で言うと、負荷を必要に応じて自動調整する調速機に繋いでトルクを計測しているイメージだ。


    モデル情報

シミュレーション実行

 それではざっと主要なvariablesの挙動を観ていこう。

    Input

     Inputの値・動きが意図通りか、inpurtが反映されるvariablesを確認。

    1. 吸気圧力
    2.  ランプ状に上昇させる。これに応じてトルク・出力が増加することを確認する。


    3. 吸気温度
    4.  ランプ状に上昇させる。これに応じてトルク・出力が減少することを確認する。


    5. シャフト機械回転数
    6.  ランプ状に加速する。これに応じてトルク出力が一定のまま出力が上昇することを確認する。


    7. 燃料混合比
    8.  一応確認。一定値のまま変化させない。


    Variables

     主要なoutputの挙動を確認してゆく。ただ、考察はモデルの動きが妥当なものかを確かめる程度で済まし、サイクルの挙動そのものや、その挙動から何が導き言えるかといった詳しい熱力学的考察は省略する。また、この記事で確認したものと被る内容についても省略する。

    1. 軸パワー、軸トルク (正値=出力)
    2.  50 [s] から、回転数上昇に応じてパワーが上昇する。一方で、トルクとサイクル出力仕事は増加しない。これは後述するが、1サイクルあたりの作動ガスの質量が変化せず、熱サイクルが回る速さ(単位時間あたりの熱サイクル回数)が上昇することによる。




    3. シリンダ通過ガス質量流量、シリンダ通過ガス体積流量、吸気密度
    4.  吸気圧力の上昇に伴い、10 [s] から質量流量が増加する。これは吸気圧力上昇に応じて密度が上昇しているため。体積流量の動きを観ての通り、レシプロエンジンでは体積流量は機械回転数に対して一意に決まる。そして、吸気したガスの状態によって密度が決まり、その大小で質量流量が上下する。

       同様の理由で、30 [s] から吸気温度上昇に応じて、吸気密度が低下し質量流量が低下している。




    5. 消費燃料質量流量
    6.  燃料混合比を一定値に保っているため、シリンダ通過ガス質量流量と全く同じ動きをする。


    7. 排気が発生する推力、排気管出口ガス圧力
    8.  最後は蛇足。不明点として上述した、排気ポート圧力の件と少し関わりが有るもの。排気が自由膨張する事によって生じる推力と、排気管出口圧力の変化。

       推力はパワー出力と同じ挙動、排気管出口圧力はサイクル仕事出力と同じ挙動となる。



後書き・まとめ

 冒頭で述べたことの繰り返しとはなるが、

  • この記事で作成したコンポーネントを用いて理想Ottoサイクルによるレシプロエンジン平均化モデルのコンポーネントを作成した。
  • 挙動は意図通りで、Modelicaコーディングには問題は無いが、モデル化の考え方、排気ポート圧力の決め方に疑問点が残っている。再度考察し直し、誤り・正しい考え方が判明したら、修正リリースか新バージョンをリリースするつもりである。

以上

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