ヒータよりエアコン暖房の方が省エネ

 過去にこの記事にて,冷房機とと言うものが良く工夫された一見魔法のような機械である事を述べた.
 ここで,原理説明と共に,暖房機も仕組みが同じであると触れいる.そこから既にお気づきの方も居ると思うが,この動作原理故,部屋を暖める機器として,エアコンの暖房モードは各種ヒーター(石油ストーブや電熱ヒーター)よりも必ずエネルギ効率が高くなる(所謂”省エネ”)となる.

記事を通して言いたいこと(結論)

 既に上で述べているが,例によって、冒頭で改めて述べておく。
  • 部屋を暖めるという目的を達するには,(電気式/燃料式問わず)ヒーターよりもエアコンの暖房モードを使う方がエネルギ的効率が高い.それを簡易なモデルのシミュレーションにより示す.
  • 上記のようになるのは,ヒーターとエアコン暖房の基本原理によるもの.
 上述結論故,大切なエネルギ資源節約の為には,ヒーターよりもエアコン暖房モードを使う事が好ましいと言う事にはなるが,常に絶対とは限らない事には注意されたい.
 電力はひっ迫しているが,暖を取るに足る熱を発生させる資源は十分に確保されていると言う状況は有り得るし,ゴミ焼却で否応無く発生した熱を,温水プールや部屋の加熱に活用しているような施設も有る.世の中,”熱を発してしまう”ものは数多あり,それを暖取り目的に活用するのまで否定するのは好ましくない.

モデル化対象(とその周辺について)

    ヒーター(発熱機器)とエアコンの暖房(ヒートポンプ)の違い

     石油ストーブ,電気ストーブのようなヒーターと,エアコンを暖房として(以降,”ヒートポンプ”という語を使用)作動させるのは,部屋の温度を上げると言う機能は同じでも原理が大きく異なる.
     下に示す2つの図の通り,ヒーターは燃料や電力といった投入エネルギをそのまま熱に変換し,その熱で室温を上昇させる.一方,ヒートポンプは投入されたエネルギ(多くの場合は電力)をそのまま部屋を暖める熱には変えない.このエネルギを使って,外気から熱を抜き取り,それを室内に運ぶという仕事を行う.熱を温度がより低い外気から高い室内に,強制的に”汲み上げる”ので,ヒート”ポンプ”と呼ばれる.水の流れと同様に,熱も自然には高い所から低い所にしか流れず,機械を通して仕事をして半ば無理矢理移動させる.
     これら2つを見比べた時,根本的に異なるのは,部屋の温度を上げるための熱の源である.ヒーターは投入エネルギそのものが熱源だが,ヒートポンプは,外の空気が熱源だ.これがヒートポンプの方が必ず効率が高くなる理由.
     ヒーターは,絶対に投入したエネルギと同等か,それ以下(機械には必ずロスが生じるので)の熱しか部屋に送り込めない.対して,ヒートポンプは熱源自体は外であり,投入エネルギは熱を動かす事に使われ,必ず,エネルギ投入量よりも部屋に送りこまれる熱量の方が大きくなる.
      
     *ヒートポンプの性能の指標に成績係数というものが有り,ヒートポンプの設計と作動条件で値は変わる.例えばこれが2の場合,投入したエネルギの2倍の熱を外気から部屋に移動させられる事を意味する.この値は1よりは大きくなる.勿論,物理的に有り得はするのだろうが,それは投入した動力がどこかに漏洩しており,もはや”熱を運ぶ機能”が損なわれているので,ここではヒートポンプとして扱わない.故障や劣化により,成績係数1を下回る性能になってしまったという場合は有り得るのだろうが,設計時点で成績係数1未満とあっては,単純なヒーターを使った方がましという話なので,そんなものを使用する理由は無い.
      
    Heater:
      
    Heat pump:

    ヒートポンプ(エアコンの暖房)の仕組み

     それでは,ヒートポンプはどのようにして,自然に逆らって熱を冷たい外気から,温度の高い室内に移動させているかであるが,その基本原理は既出のこの記事にて記しているのでそちらを参照されたい.一見,熱力学第2則を破っているので魔法のようだが,中身は良く工夫された奇術だ.

シミュレーションモデル

    Diagram

     ヒーター,ヒートポンプそれぞれで,closed volumeを加熱(熱量を投入)する.同じ温度から開始し,目標温度に到達したらそこで作動を停止するような単純ON/OFF制御w設ける.
     これで作動停止までに要した投入エネルギの大小で効率の大小が判る.
     ヒートポンプのコンポーネントは自作のもので,逆カルノーサイクルにより,投入動力(power,単位時間当たりのエネルギ)と成績係数の信号入力に応じて,thermal portの温度に依らずにアイコンの矢印の向きに熱量を移動させると言う機能を持つ.本コンポーネントは本記事用の例モデルと同じPropulsionSystem libraryに格納・公開してある.
     上述した通り,ヒートポンプの場合は熱源として外気が必要なので,もう1つClosed Volumeを用意,接続し,(開始時の)室温よりも低い温度に設定する.
     

    モデル化上の前提条件

    1. 部屋は,断熱されていて,ヒーター/ヒートポンプが与える熱以外に熱の出入りは無い.
    2. 燃焼による組成変化など,温度変化以外の物性変化は無視する.
    3. ヒーターとヒートポンプの,時間当たりの投入エネルギを同じに値に設定する.
    4.  投入エネルギが同じなので,先に目標温度到達し作動停止した方が効率が高い事になる.
    5. ヒートポンプの成績係数は一定とする.
    6.  作動状態,温度条件等で変化するが,ここでは単純化して変わらないとする.

    Parameters(主要な固定値input)

    1. ヒートポンプの成績係数:3
    2.  こちらに多くは2.5から3.5との記述があるので,3と置く.
    3. ヒーターの効率:1.0
    4.  投入した燃料/電気のエネルギはすべて熱量として室温上昇に寄与するとみなす.
    5. ヒーター,ヒートポンプへのエネルギ投入(単位時間あたり):2.0 [kW]
    6. 開始室温:5 [degC]
    7. 目標室温:25 [degC]
    8. 両部屋の体積:5 [m3]
    9. 外気(ヒートポンプ熱源)温度:-5.0 [degC]
    10. 外気体積:50 [m3]
    11.  外気体積は部屋と比較すると無限大と捉える方が実態に近いが,外気が熱を抜き取られた事を気温低下により確認する意図と,計算都合上,無限体積は設定できない為,部屋より格段に大きな値を設定しておく.(なお,エアコン室外機の配置や外気の気流次第では,実際に有限体積で考えた方が好ましい場合も有ると考えられる.)

    シミュレーションモデル情報

     毎度通り,シミュレーションモデル(および使用している自作コンポーネント)はgithubにソースコードを公開しているので,是非parameter/inputを変えるなどして実際に動かされたい.

シミュレーション実行

    Input

     時間経過に応じて変化させるinput無し.
      

    Variables

    1. ヒータで加熱する部屋の気温(赤),ヒートポンプで加熱する部屋の気温(青),外気温(緑)
    2.  一目瞭然でヒートポンプで加熱された部屋の気温が目標に到達.4倍の違いが生じている.
       また,外気温については,ヒートポンプによる部屋の加熱に伴って,若干ではあるが気温が下がっている事が確認できる.外気の有限空間体積を部屋の10倍と格段に大きくしたため気温低下は僅かだが,外気から熱が吸い上げられて部屋の中へ運ばれている事が解る.
    3. 投入エネルギ積算値
    4.  部屋を目標温度に達するまで温めるのに要した投入エネルギの総和の比較である.目標温度に到達すると自動でエネルギ投入を停止するので,グラフが変化せず横ばいとなった時の値が,消費したエネルギだ.見ての通り,ヒートポンプの方が格段に少ない.成績係数3のヒートポンプを用いれば,単純なヒーターの1/4のエネルギ消費で済む.
       この差が生じるのは,既に説明したように,ヒートポンプは投入したエネルギを直接部屋の加熱には使わずに機械を動かし,その機械が,他所から熱量を部屋に運ぶ仕事を行っているからだ.
       このことから,冒頭で述べた通り,部屋・空間を暖めるには,エネルギ消費の効率の観点からはストーブよりもエアコンの暖房の方が好ましい事が解る.
       ただ勿論,無制限にエアコン暖房が好ましいと言う訳では無い.下記のように,エアコン暖房以外の方が役に立つ場合も多々ある.
      1. エアコンは基本電気で動作するが,電気得られないが燃料は手元にあるような環境(小型飛行機とかそう.あれらは暖房はエンジンの熱を取ってきて使うか,小型のストーブ積んでいる.)ではヒーターが役に立つ.
      2. 最近減った印象だが,ハロゲンランプヒーターのようなエアコン暖房ともストーブとも事なる暖房器具も有る.あれは輻射で照射対象そのものを直接暖める.部屋の空気を暖めない.この動作はエアコン暖房には真似できないし,特定のものを暖めたい場合はエアコン暖房効率が良い可能性が高い.
      3. ヒートポンプは熱交換を経ているその動作上,どうしても応答性に欠ける.ドライヤーのような,強力な熱風を局所的,瞬発的に生みたいような用途には不向き.
      4. ヒーターの熱源が,別の処理で生じた余剰熱の有効活用の場合がある.例えばゴミ焼却施設やガスタービン原動機,高温ガス炉では否応なく高温の排熱が生じ,付近の商業施設に暖房・湯沸かしの熱源として供給されるような場合がある.
      

後書き・まとめ

 
 毎度通り,ほぼ冒頭の結論の繰り返し.
  • 部屋を暖めるという目的を達するには,(電気式/燃料式問わず)ヒーターよりもエアコンの暖房モードを使う方がエネルギ的効率が高い.
  • 上記のようになるのは,ヒーターとヒートポンプの基本原理によるもの.
 と言う訳で,ヒーターかエアコンかの選択肢がある場合は,基本はエアコン暖房を選びましょう.特に,ヒーターのエネルギ源が電気の場合.
以上

コメント

タイトルとURLをコピーしました