レシプロエンジン平均化モデル_例題_O360(1)

記事を通して言いたいこと(結論)

 例によって、冒頭で述べておく。

  • 平均化レシプロエンジンコンポーネントを用いて、Lycoming O360という名作エンジンのシミュレーションモデルを作成した。
  • 計算結果と、O360を搭載した飛行機のマニュアルから得られる性能情報を比較したところ、シミュレーションモデルはロスが3割程足りない(シミュレーションモデルの出力の方が実物より大きい)という結果を得た。当たらずとも遠からずな結果だが、ピストンエンジンでは投入熱量の3割前後が冷却損失、シリンダから空気/冷却液への熱移動、により失われるようなので、損失皆無の現モデルとしては妥当な結果であると考えられる。

モデル化対象(とその周辺技術など)

    O360

     O360はLycoming社が製造・販売するベストセラーの航空用レシプロエンジンだ。

     航空用レシプロエンジンと言っても、第2次大戦時代の代物ではなく、戦後に主に民間小型機分野向けに開発・販売された。現在も生産・使用が続けられており、代表的な搭載機は傑作機C172だ。

     水平対抗4気筒の空冷レシプロエンジンだ。気筒数により派生(姉妹)機種もあり、6気筒でO540などだ。(数字は[in3]の全排気量を示す。)


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    諸元

    • 排気量= 5916 [cc] = 5916*10^(-6) [m3] = 361 [in3]
    • 圧縮比= 8.5
    • Sea level, 75% rated power での作動状態量;
      • 外気温度= 15 [degC]
      • マニフォールド圧力= 25.2 inhg = 85.3[kPa]
      • 機械回転数= 2400 [rpm]
      • 軸出力= 135 [hp] = 101.7[kW]
      • 燃料体積流量= 11.2 [U.S.Gal/h] = 1.17768*10^(-5) [m3/s]
        • ガソリン密度= 6.01 [lbm/U.S. Gal] = 720 [kg/m3] (@15[degC])
        • ∴ 燃料質量流量= 847.93*10^(-5) [kg/s]

    エンジン情報出展:

     C172を話題に挙げ、参考図書を紹介しておいて申し訳ないが、上記の情報は別の搭載機、Pa-44の飛行マニュアルからのものだ。同エンジンを搭載した多発・定速プロペラ装備機である本機の方が、エンジンに関する情報が多少多い。

     例えば、インテイクマニフォールド圧の情報は、計器表示していないC172のマニュアルには載っていない。また、定速プロペラ機であることも都合が良い。エンジン出力を調節するスロットルとは別に、プロペラ回転数を任意の値に調節して運用する(つまり、エンジン出力操作で変わるのはエンジンのトルク)。なので、シミュレーション上も出力軸回転数を境界条件として拘束してしまえる。

    • Wikipedia
    • Pa-44-180 Seminole Pilot Operating Handbook, Section 5, Fuel and power chart
    • *残念ながらAmazonでは販売されていないようです。

    以上の情報に加え、空気密度の値を仮定すると、燃料質量割合は下記のようになる。

    • 空気密度= 1.2041 [kg/m3]
    • 燃料質量割合= 0.056

シミュレーションモデル

    Diagram

     大まかな造りは、ピストンエンジン平均化モデルの作成(5) – ガソリン燃焼効率組み込みピストン&シリンダ – で登場したモデルと同じ。大きな違いは下記。

    1. 気筒の数
    2.  本モデルでは気筒数が4つなので、ピストンシリンダーコンポーネントを4つ並べ直列接続している。

       ピストンシリンダーをアイコン上は1つだけ設置し、配列としてインスタンス化するという手も有るが、「実物のシリンダが4つだからコンポーネントアイコンも4つ並ぶようにする」というポリシーにより4つ別々にインスタンス化した。この辺は、モデリングエンジニアの好みで分かれる所だと思う。また、軸の出力伝達周りのモデル化等、ピストンシリンダ4つを1まとめにするか個々にするかが別箇所のモデリングに影響したりもするので、モデリング目的にも依る。

       因みに今回直列接続しているが、これも本物の並びに合わせてのもの。滅多に無いと思うが、2つ以上の独立したエンジンが伝達機械を介して1つの出力軸を駆動するようなエンジン、例えばHe177の双子エンジン、の場合は回転伝達系のコンポーネントを使って”並列接続”のモデルを造ろう。

    3. 出力軸の境界条件
    4.  ピストンエンジン平均化モデルの作成(5) – ガソリン燃焼効率組み込みピストン&シリンダ – では、出力軸には回転ダンパ(=負荷)と任意にトルクを与える境界コンポーネントを設置していたが、本モデルでは、回転軸に任意の機械回転数を与える境界を置く。前述した通り、 エンジンデータ参照先の機体は定速プロペラを装備し、エンジン出力を操作しても回転数は維持されトルクだけが変動するようになっているからだ。(*出力を調速レバーで指示した回転数を維持できない所まで下げると、当然回転数は下がる。)

    5. スロットルを代表する圧力損失要素
    6.  ピストンエンジン平均化モデルの作成(5) – ガソリン燃焼効率組み込みピストン&シリンダ – では吸気経路にzetaを任意に変化させられる流路抵抗コンポーネントを配置したが、今回は流路断面積を自由に変化させられる流路抵抗コンポーネントを作成したので、それをスロットルバルブとして使う。

       因みに、当該の流路抵抗コンポーネントは、PropulsionSystem libraryではなく、より汎用的な流体コンポーネントを集めたFluidSystemComponent library(当然GPL3でフリーソフトとして公開)に収録しており、本モデルの利用にはそのlibraryも導入しておく必要が有ることに注意されたい。


    (参)ちょっと変わった”双子エンジン”を搭載した”4発機”

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    境界条件

     本モデルの、外部条件や操作から決定され、シミュレーション中に値を変化させられるinput。これらはrampまたはtime tableで与えるようにモデルを組んでいる。

    1. 飛行高度 [m]
    2. 飛行マッハ数 [nond]
    3. スロットルバルブ開度 [nond]
    4. 燃料質量比 [nond]
    5. 出力軸回転機械効率 [nond] (回転機械損失コンポーネントへのinput)
    6. 出力軸機械回転数 [rpm]
    7. スロットルバルブ流量係数 [nond]
    8. 排気経路圧力損失係数 [nond]

シミュレーション実行

    Input

     上述の通り、境界条件として変化させられるinputは達数有るが、今回はとある1条件の作動条件にて、解析モデルが実物データをどの程度再現するかを試すのが目的なので、殆ど総て変化させない。固定値inputは記載省略するので、値を知りたい場合はモデルを開いて確認されたい。

    1. 回転機械損失要素の機械伝達効率 [nond]
    2. どの程度ロスを与えれば実物と合うかを確認するため、シャフト伝達ロスの値を振ってみる。本来、損失はシリンダからの熱逃げ、圧縮・膨張行程の断熱効率、吸気・排気行程の摩擦損失、などと細分化し(熱逃げに至ってはさらにサイクルのどのフェイズでの熱逃げかに分け得られる)、それぞれ値を振って合わせこみを試みるべきだ。だがここでは簡略化のため、シャフト伝達ロス1つに押しつける。飽くまで、どの程度、出力計算が過大かを確かめるためだ。


    Variables

    1. インテイクマニフォールドの吸気圧力
    2.  機体の計器出力と同じ [inHG] 表示に単位換算している。

       概ね25.2 [inHG] となるよう調整出来ていることを確認できる。


    3. シリンダ内燃焼効率
    4.  念のため、与えた燃料質量比で妥当な燃焼効率での作動となっていることを確認。概ね1で作動させられている。機体運用マニュアルの情報から算出した燃料質量割合は妥当なもののようだ。


    5. 軸出力
    6.  航空ピストンエンジンの慣例に合わせて、[hp] 表示に単位換算している。

       軸出力はというと、135 [hp] を優に上回り190 [hp] に達してしまっており、乖離は大きい。一方、オーダー(桁)としては”大体合っている”と解釈出来そうでもあり、熱サイクルモデルもしくは平均化モデルが根本的に誤っており、当て推量な結果を吐き出しているという訳でもなさそうだ。

       となると確認すべきは、現状のモデルでは考慮していない現象・要因を加えるとどの程度実物の値に近づき得るかだ。その為に、前述した、軸損失コンポーネントを軸出力計測位置手前に配置し、機械伝達効率(損失度合)を変化させた。これに関しては、横軸を機械効率に置換えて事項で考察しよう。


    7. 軸出力 vs. 軸伝達効率
    8.  下図は 軸出力がフライトマニュアル記載値135 [hp] となるためには、軸伝達効率が0.63程度まで悪くなければならない事を示している。

       上述した通り、軸伝達効率は、軸出力計算値を実物に合わせるにはロスがどの程度必要かを観るための代表値だ。なので次のように読み替える:実物のO360では、オットーサイクルを通してガソリンの燃焼から取り出され得る仕事のうち、約37 [%] が何らかの形で損失となり逃げている。

      *軸伝達効率はpiston-cylinderの出力に対して掛けているので、”ガソリンの持つエネルギの37 [%] が損失となっている”、のではない事に注意されたい。この37 [%]は”熱効率”が示す、排気が熱を持っていることによる損は含んでいない。

       文献を当たりなおす必要が有るが、37 [%] の損失というのは、シリンダからの熱逃げ(冷却損失)と摩擦損失等を合わせたものとして、オーダーとして有り得るものなのではないだろうか。となると、現モデルのシミュレーション結果は、(燃焼効率以外損失を何ら考慮していない)理想熱サイクルを実装したものとしては妥当と捉えて良さそうだ。そして、熱逃げと摩擦損失を加味出来るモデルの作成が次の課題に登った事になる。


       以下、熱サイクルのh-s, T-s, p-v線図を載せておく。本題から少し逸れるのでコメントは無し。 。。。だがこれを観ると、状態3の温度・圧力と状態4の温度は高過ぎるという印象。。

       *各図はt=90 [sec] でのものだが、本記事のシミュレーションにおいて、熱サイクルは全く変えていない。どの時刻のものを観ても同じだ。

    9. h-s線図

    10. T-s線図

    11. p-v線図

参考文献:internal combustion engine

Engineering Fundamentals of the Internal Combustion Engine
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Internal Combustion Engine Fundamentals
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Internal Combustion Engines: Applied Thermosciences
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自動車用ガソリンエンジンの設計
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後書き・まとめ

 毎度同様、ほぼ冒頭で述べたことの繰り返しとなるが、

  • 平均化レシプロエンジンコンポーネントを用いて、Lycoming O360という名作エンジンのシミュレーションモデルを作成した。
  • 計算結果と、O360を搭載した飛行機のマニュアルから得られる性能情報を比較したところ、シミュレーションモデルはロスが3割程足りない(シミュレーションモデルの出力の方が実物より大きい)という結果を得た。当たらずとも遠からずな結果だが、ピストンエンジンでは投入熱量の3割前後が冷却損失、シリンダから空気/冷却液への熱移動、により失われるようなので、損失皆無の現モデルとしては妥当な結果であると考えられる。
  • 冷却損失(シリンダからの熱逃げ)、摩擦損失を加味するピストン&シリンダの作成とエンジンモデルの作成が今後の課題として明確化された。

モデル情報

以上

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