今回はこの日常の疑問を1DCAEモデルを使って定性的に説明することを試みる。
仮説:
まず、湿度が高い日の方が”寒い”、と感じる原因に対して仮説を立ててみる。
- 水蒸気混じり空気の方が比熱が大きい。故に、通過空気の熱容量(質量流量*比熱)が大きくなる。皮膚周辺の空気温度が上昇し難くなり、人体から受け取れる伝熱量が大きくなる。→”寒さ”への寄与大きそう。湿気が多い海岸部・島国ほど気温が上がりにくいという事実が有り、湿度で比熱は激変しそう。
- 空気の熱伝導率が高い。皮膚付近から遠くへと熱が拡散し易く、皮膚から周辺空気へ放熱し易い。→寄与が大きいか疑問。湿度が大きい方が熱が伝わり易いという身近な例が思い浮かばない。熱伝導率の値についての知識不足もあり、調べてみる必要有り。
- 空気密度が高くなる。高湿空気の方が皮膚周辺を通過する質量流量が大きくなる。(体積流量が同じと仮定する。)故に通過空気の熱容量(質量流量*比熱)が大きくなる。そして、皮膚周辺の空気温度が上昇し難くなり、人体から受け取れる伝熱量が大きくなる。→”寒さ”への寄与が有りそう。
- 粘度、Pr数の違い。物性の違いが、Nu数が大きくなる方向で、結果、熱伝達率が高くなる。→寄与が有るか疑問。果たしてRe数、Pr数が高まる高まる方向なのか?物性に関する知識が不足。調べる必要有り。
仮説を個々に検証してゆく。条件/設定/parameterを1つずつ変える。多数を一度に変えると、どれが効いた/効かなかった、を観るのが難しいためである。ただし、後述する計算モデルの都合上、複数の設定が同時変化してしまうことも有る。その場合は途中計算を詳しく追って、仮説立てした因果関係が成り立っているかを追跡する。
今回は、1.の湿度による比熱の違いが、”湿度が高い日に寒く感じる”ことに繋がっているかを確かめる。
モデル化:
皮膚を介して身体の熱が空気に奪われる現象を極力シンプルにモデル化する。
Modelicaで実際にモデルを組み立てる。紙・手書きの段階でここまで抽象化出来ていれば、Modelicaで流体・熱回路を組むのは易い。
本当なら、皮膚の熱伝導率、皮膚表面の熱伝達率、伝熱面積、通過する空気の質量流量を真面目に考えなければならないが、余りに非現実的な結果が出ない限り適当な値で済ませる。目的は、定性的に「仮説1」が正しいと判る計算結果を得る事だけ。湿度に対する体感温度を予測するモデルを作る、などと言った定量的な合わせこみが必要なことを行う訳ではない。
本モデルの収録先:
SystemModels.VirtualExperiments.temperatureFelt_001
GPL3で公開するので利用、改造ご自由にどうぞ。
計算条件
乾燥空気:水蒸気の質量比= 0
湿潤空気:水蒸気の質量比= 0.05
空気流の受熱前温度(風の気温)= 5 degC
計算結果
湿潤空気では、皮膚表面温度、皮膚周辺空気温度共に、乾燥空気の場合よりも低くなっている。体内から空気までの温度差が大きくなり、伝熱量も湿潤空気の場合の方が遥かに大きい。
この結果から、気温が同じでも湿度が高い日に寒く感じる原因の1つが、仮説1で正しいことが計算で確認された。
皮膚表面温度と周辺空気温度
実線・赤:皮膚表面温度、乾燥空気
実線・緑:皮膚周辺空気温度、乾燥空気
点線・青:皮膚表面温度、湿潤空気
点線・紫:皮膚周辺空気温度、湿潤空気
実線・赤:皮膚表面温度、乾燥空気
実線・緑:皮膚周辺空気温度、乾燥空気
点線・青:皮膚表面温度、湿潤空気
点線・紫:皮膚周辺空気温度、湿潤空気
定圧比熱
赤・実線:乾燥空気
青・点線:湿潤空気
赤・実線:乾燥空気
青・点線:湿潤空気
伝熱量
赤:乾燥空気
青:湿潤空気
赤:乾燥空気
青:湿潤空気
今回はここまで。以上
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