冷暖房機は一見すると魔法のような機械

 この記事の繋がりで、少しModelicaを離れて冷房機について書く。先に書いておくと、言いたいことは大きく次の2つ。(しかし、どちらも大学で基礎的な熱力学を履修していれば当たり前の話なので面白みな無いかと。。。)なお、話は総て作動流体が空気の逆ブレトンサイクルを用いて行う。相変化を伴わないので話がシンプルで済むからだ。あと、フロンのような特別な作動流体がなくても、冷房機の機能は実現できるのを示したいというのもあるが。(パフォーマンスは良くない筈ではあるが。)
  • 冷房機は、一聞するとまるで”魔法”とも言える機能を成している。
  • その”魔法”のような機能は、ちょっとしたトリックで実現されている。
 1つ目、”魔法”のような機械について。まず、冷房機(クーラー、冷蔵庫、冷凍庫)は身の回りに当たり前にあるが、何を行っているか意識したことはあるだろうか?
”冷たい空気を作る”
だけを見ると難しい話など無さそうで、それ位、気化熱を利用するだけだろう、で終わる。
 しかし、話はそう単純には終わらない。電力だけを使って、部屋の温度だけを下げなければならない。コールドスプレーみたく何か物質を消耗するものだと不便だし、室内空気の組成も変えたくない。だとすると、冷房機は何を行うか。”部屋から熱を取り除き、外に捨てる”ことになる。模式図で表すと下図のようになる。
cooler_diagram_00
Fig. 冷房機の機能
  
 これを見て、あれ??と思われないだろうか?
 冷房機なる箱は(電力なるお代を払っているとは言え)、”外より温度が低い室内から、より温度が高い外気に熱を移動させている。”
 熱力学第2法則によると、”熱は温度が高い方から低い方へしか流れない”。冷房機の機能はこれに背いていることになるのだ。それを見ると”魔法の機械”と呼ぶのも過言ではないように聞こえてこないだろうか。冷房機は余りに身近で世界を変えた発明に挙がることもないが、実は非常に画期的な機械なのだ。
  
 ここから2つめの話。
 勿論、現実には魔法など無く、熱力学第2則を破るなどという事は出来ない。
 少しばかりのトリックで巧みに熱を冷たい所から熱い所へ運んでいる。下図に示すように、低温部と高温部の間に熱を運ぶ媒介物質を挟み、その流体の状態を適宜熱を移動させるのに都合が良いものに変えるのだ。
 具体的には、流体を室温よりも低温にすることで熱を受け取れるようにし、その流体を断熱圧縮により外気よりも高温にすることで熱を捨てられるようにしている。熱受け取り部の室温よりも低温の状態はどの様に作るかというと、断熱膨張により作り出す。外気への排熱後のエンタルピが減った作動流体を、圧縮前の圧力まで膨張させると圧縮前よりも低温になる。これを循環させることで、熱を室内空気→作動流体→外気、と低温部から高温部へと移動させているのだ。
 ちなみに、作動流体を循環させるのと途中の断熱圧縮のためにどうしても外部から装置に仕事(駆動力)を与えなければならない。電力を使うのはこの部分だ。尚、断熱膨張で流体から仕事を取り出せるので、それで圧縮機駆動力の一部は賄えるが、完全に賄うことは出来ない。もし出来たら、外部から何も与えずに熱を自在に移動させられる、第2種永久機関の1形態となる。これは、熱力学第2則によるもので、エンジンが投入熱量総てを有効仕事に変えられないのと同じ。
cooler_diagram_01
冷房機のトリック(暖房機も原理は同じ)
  
 話は長くなったが、魔法のように見える冷房機のトリックは、核の考えは意外と単純だ。局所的に、”高温部より熱く、低温部より冷たい”状態を作ることで熱を半ば無理矢理移動させているのだ。
 今回はエアの話だけとなったが、モデルを使って例題を色々作っては結果を眺めて首を捻って、を重ねると理解がさらに進む。次回以降は再びModelicaによるAir Cycle Machineを用いたバーチャル実験に戻る。
以上

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