*執筆途中だが公開ポリシーに則り公開。
2023.10.20
記事を通して言いたいこと(結論)
例によって、冒頭で述べておく。
- 高温ガス炉は冷却剤供給機能喪失に対して安全性が高いものとなりやすい.それを1Dの簡易な熱流体回路の計算で観る.冷却剤供給機能喪失に強い理由としては下記が考えられる
- 炉に供給される冷却剤(熱輸送媒体)の温度が高い.
- 炉に供給される冷却材の熱容量が小さい.
- 炉入口から出口までの温度上昇が大きい.
(*筆者は熱機関、熱流体分野の住人で原子力が専門ではないが、原子力発電のシステムも原子炉炉心以外は熱・流体回路/熱移送システムであるので出鱈目/的外れな解析ではない筈).
モデル化対象(とその周辺について)
高温ガス炉
名前が語るように、原子炉から熱を取り出し運ぶ流体に水ではなく、気体を使うというもの.熱機関としてはガスタービンとなるが、既存のガスタービンエンジンのように外気を吸気し、排気を大気中に捨てるというものではなく、タービンでの膨張後の排気は熱交換器で排熱し、再び圧縮機へと戻っていく、閉サイクルガスタービンとなる.
水を用いたものでは、水の相変化の都合で作動させる温度域が限られるが、こちらでは最初から気相のみを使うため、使用材料の限界温度まで作動温度を高める事が出来る.そのため熱効率の高い機関となる事と、高温の熱自体を工業用に利用できる事が期待される.
商用実用化が未だなため馴染がないかもしれないが、国外のみだけでなく日本でも研究・技術実証炉は製作、運転されてきた.また、この形式の商用炉の実用化を目指すスタートアップ企業も日本に存在する.
[参考]加圧水炉、沸騰水炉
シミュレーションモデル
- モデルのフルパス:PropulsionSystem.Examples.ThermoCycleSystem…Point.SeparateGasTurbine_with_HT_DesPt_ex01
- githubのライブラリページリンク
Diagram
非常に簡略化したモデルとしている.また、流体は簡単のため、これまで使い慣れている空気を用いた.(作動流体にはヘリウムが想定されているらしく、ヘリウムを用いた解析を行うのは次段階の課題の1つ.)
高温ガス炉は通常、閉サイクルガスタービンを成すが、圧縮機入口とタービン出口を境界条件として簡略化.圧縮機とタービンも多くの場合は軸接続されるが、それも省略し、独立作動のものとしている.
炉心の伝熱部については、1次元平板の強制対流熱伝達コンポーネントを置き、熱量境界条件を与えている.炉心構造物の熱伝導と熱容量は省略し、通過流体の温度・熱容量、伝達部の熱抵抗から個体表面温度が決まる熱回路となっている.
炉心内部は当然平板ではなく、熱交換器の内部のように熱伝達率を高めるための工夫が凝らされた設計となる筈なので、平板の式で算出した熱伝達率に設計変数として係数掛けを与えられるようにしている.
この係数と、有効伝熱面積を設計変数として値を振り、”もし通常作動時にこうなるように設計したら、冷却材喪失時の挙動は”をシミュレートする.
冷却材喪失時の挙動だが、これは平行して別回路を設けて、通常作動時と同時に解析実行する.
こちらには1次元平板自然対流の熱伝達コンポーネントを配置し、圧縮機境界条件と同じ、常温常圧の空気を流体として与える.
当然、上述した平板の熱伝達率に掛ける係数は、こちらで平板の式で算出された熱伝達率にも掛け、伝熱面積も同じ値を与える.冷却材喪失時に異なるのは、供給される熱輸送流体の状態と、強制対流が自然対流となる事となるようにする.
各所の温度をこの記事で示した方法にてカラーグラデーションアイコンで表示するようにして状態を把握し易いようにしている.
●シミュレーションモデル情報
シミュレーション実行
- AreaHT: [m2]
- khconv: 20 [nond]
- constraint_m_flow.tgtVal_paramInput: 350 [kg/s]
- boundary.p: 100 [kPa]
- boundary.T: 15 [degC]
- ramp_heat.offset: 165 [MW]
Parameter(主要なもののみ)
値を振るもの
有効伝熱面積
値を固定するもの
熱伝達率逓倍係数
値は、熱水を扱う熱交換器の値を参考に、有効熱伝達率が1e3オーダーの高い値となるよう設定.
ガスタービンの空気質量流量
外気(ガスタービン圧縮機入口)圧力.
外気(ガスタービン圧縮機入口)温度.
炉熱出力.この値はS6G原子炉(ロサンゼルス級原潜の機関)のもの.
Input
時間変化させるinput無し.常時、炉は全開出力の165 [MW] で作動するとする.
Result: diagram
後書き・まとめ
- 高温ガス炉は冷却剤供給機能喪失に対して安全性が高いものとなりやすい.それを1Dの簡易な熱流体回路の計算で観た.
- 実際に想定されているように、作動流体をヘリウムとしたガス炉モデルの作成と空気の場合との比較.
- 伝熱モデルの高度化
- 炉固体、液体中の温度分布をモデル化.
- 熱伝達率算出方法の高度化.
- 沸騰水炉、加圧水炉での同様の解析と比較.
例によって、冒頭で述べた結論をもう一度。
課題
以上
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